心房細動のカテーテルアブレーションの進化
- 翔平 岸
- 7月20日
- 読了時間: 4分
更新日:10月14日
新潟も梅雨明けし、ここ長岡市も連日35度を超えています。私が子供の頃は30度を超える日など8月に数えるほどしかなかったような気がします。異常な暑さですが、くれぐれも熱中症にはご注意ください。
さて、心房細動は今でこそカテーテルアブレーションによる治療が一般的なものとなっていますが、その背景には、多くの研究者や医師による努力と発見がありました。今日はその辺りを少し語って見たいと思います。
1.心房細動とは
心房細動とは、心臓の心房が不規則かつ高速に興奮することで、効率的な血液の拍出ができなくなる不整脈です。心拍数の増加や不整脈に伴う動悸、息切れといった症状に加え、脳梗塞などの血栓塞栓症や心不全のリスクを増大させるため、適切な管理と治療が必要です。
2.治療の黎明期:薬物療法と外科的アプローチ
カテーテルアブレーションが確立される以前は、心房細動の治療は主に薬物療法が中心でした。抗不整脈薬による心拍数やリズムのコントロール、および抗凝固薬による血栓塞栓症の予防が主な治療戦略でした。しかし、薬物療法では症状の改善が不十分な症例や、薬剤の副作用に悩まされる症例も少なくありませんでした。
また、外科的に心房の一部を切開・縫合することで、異常な電気信号の伝達経路を遮断するメイズ手術などのアプローチも存在しましたが、これは開胸手術を伴う侵襲性の高い治療であり、適応は限定的でした。
3.カテーテルアブレーションの幕開け:起源の特定と高周波焼灼術の確立
カテーテルアブレーションの歴史において、画期的な転換点となったのは、心房細動の発生源に関する発見です。1990年代半ば、フランスのHaissaguerreらのグループは、心房細動の多くが左心房に流入する肺静脈の内部あるいはその近傍から発生する異常な電気信号によって引き起こされることを発見し、1998年に『The New England Journal of Medicine』誌にその研究成果を発表しました。
この発見は、心房細動治療のターゲットを明確化するものであり、それまで手探りであったアブレーション治療に、明確な方向性をもたらしました。初期のアブレーションは、カテーテルの先端から高周波電流を流し、その熱によって異常な電気信号を発する組織を焼灼する高周波カテーテルアブレーションが主流となりました。これにより、開胸手術を伴わずに不整脈の原因部位を治療することが可能となり、患者さんの負担軽減に大きく貢献しました。
4.技術の進歩:3Dマッピングシステムと冷凍アブレーションの登場
治療の精度と安全性を高めるため、その後の技術革新が進みました。
3Dマッピングシステム:心臓内部の電気的活動を立体的に可視化する3Dマッピングシステム(例:CARTOシステム、EnSite システム)が登場しました。これにより、医師はカテーテルの位置やアブレーション病変の形成状況をリアルタイムかつ高精度に把握できるようになり、治療の成功率向上とX線透視時間の短縮に寄与しました。
冷凍アブレーション(クライオバルーンアブレーション):高周波による熱焼灼とは異なるアプローチとして、バルーンカテーテルを用いて肺静脈口を密着させ、冷媒ガスにより組織を凍結壊死させる冷凍アブレーションが開発されました。この方法は、広範囲の組織を一度にアブレーションできる利点があり、特に発作性心房細動の治療において選択肢の一つとなっています。
5.最新の動向:パルスフィールドアブレーション(PFA)
近年、カテーテルアブレーションの分野で特に注目されているのが、パルスフィールドアブレーション(Pulsed Field Ablation; PFA)です。
PFAは、高周波や冷凍のように熱や冷気を用いるのではなく、ごく短時間で強力な電気パルスを照射することで、不整脈の原因となる心筋細胞のみを選択的に破壊する新しい技術です。この方法は、周囲の食道や神経、血管といった非心筋組織への熱的影響が極めて少ないことが特徴であり、合併症リスクの低減が期待されています。既に臨床応用が開始されており、私が今現在勤務している立川綜合病院でも使用しています。
6.まとめ:絶え間ない進歩と未来
心房細動に対するカテーテルアブレーションは、Haissaguerre医師らの発見に始まり、高周波アブレーション、3Dマッピング、冷凍アブレーション、そして最新のパルスフィールドアブレーションへと、科学技術の進歩とともに常に進化を続けています。これらの技術革新は、治療成績の向上、合併症リスクの低減、そして患者さんのQOL(生活の質)向上に大きく貢献してきました。
心房細動の治療は日進月歩であり、患者さん一人ひとりの病態に応じた最適な治療選択が重要です。ご自身の病状や治療法についてご不明な点がございましたら、主治医と十分に相談されることをお勧めいたします。




