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【守れるがんがある】「HPVワクチン」について

  • 1 日前
  • 読了時間: 5分

こんにちは。普段の私の外来では、内科や循環器の疾患を中心に診療を行っています。

婦人科疾患は私の直接の専門領域ではありません。しかし、そんな私がなぜ、わざわざブログで「子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)」を取り上げるのか――。

それは、日々の医療に携わるなかで「防げるはずの病気で、これ以上苦しむ人を見たくない」という強い思いがあるからです。

日本では過去の報道の影響もあり、このワクチンに対して大きな不安を抱えている方が今なおたくさんいらっしゃいます。「我が子に打たせて本当に大丈夫なのか…」と悩むのは、大切な家族を想えばこそ、当然の感情です。

だからこそ、ただ「安全だから打ってください」と押し付けるのではなく、今分かっている科学的な事実を、フラットに、そして誠実にお伝えしたいと思います。


そもそも「子宮頸がん」はどうして起こる?

子宮頸がんは、子宮の入り口(子宮頸部)にできるがんで、日本では毎年約1万人もの女性がかかり、約2,900人もの尊い命が失われています。特に20代〜30代の若い世代で急増しているのが大きな特徴です。子宮頸がんは、かつては40代以降に多いがんでしたが、今や20代後半から30代に発症のピークがシフトしています。実に、20代の女性が罹患するがんの過半数が子宮頸がんという、若い世代にとって最も身近で深刻ながんなのです。


このがんの最大の原因は、「ヒトパピローマウイルス(HPV)」というごくありふれたウイルスへの感染です。


知ってほしいポイント:誰でもかかるウイルスです HPVは、特別な人だけが感染するものではありません。性交渉の経験がある人なら、男女問わず一生に一度は80%以上の確率で感染すると言われています。


多くの場合は、自分の免疫力でウイルスが自然に追い出されます。しかし、一部の人でウイルスが数年〜十数年にわたって住み着いてしまう(持続感染)ことがあり、それが細胞を少しずつ変化させ(異形成)、最終的に「がん」へと進行してしまうのです。


つまり、「ウイルスの感染をあらかじめ防ぐこと」ができれば、子宮頸がんは高い確率で予防できるのです。そのために作られたのがHPVワクチンです。


世界が証明している、ワクチンの「圧倒的な有効性」

「本当にワクチンでがんが減るの?」と思われるかもしれません。すでに数年以上前から国を挙げて大規模な接種を行っている国々からは、非常に心強いデータが届いています。

例えば、イギリスで実施された大規模調査(医学誌『The Lancet』掲載)では、12〜13歳でワクチンを接種した世代において、子宮頸がんの発生率が約90%も減少したことが報告されています。また、がんの一歩手前の状態である「高度異形成」の発生率も劇的に低下しています。

オーストラリアやスウェーデンでも同様の劇的な効果が確認されており、世界保健機関(WHO)も、ワクチン接種率を高めることが世界的な子宮頸がん撲滅への最大の鍵であるとしています。


なぜ「性的デビュー前」の接種が良いのか?

日本の定期接種では、小学校6年生〜高校1年生に相当する年齢での接種が推奨されています。これには、明確な医学的理由があります。

HPVは主に性交渉によって皮膚や粘膜が接触することで感染します。そのため、「初めての性交渉(性的デビュー)を迎える前」に接種するのが、ワクチンの効果を最大限に発揮させるために最も効果的だからです。

「うちの子にはまだ早い」「そんな話をする年齢じゃない」と感じる親御さんも多いかと思います。しかし、これは性教育の話ではなく、「将来、我が子ががんになるリスクを、あらかじめ摘み取っておくための健康のバリア」なのです。


実は「男性」にも受けてほしい理由

HPVワクチンは「女性のもの」と思われがちですが、実は男性にとっても非常に重要なワクチンです。

  1. 自分自身を守るため: HPVは女性の子宮だけでなく、男性の中咽頭がん(のどのがん)、肛門がん、陰茎がん、そして男女問わず生殖器にイボができる「尖圭コンジローマ」の原因になります。

  2. 大切なパートナーを守るため(集団免疫): 男性がワクチンを打つことで、男性自身の感染を防ぐだけでなく、将来の大切なパートナーへウイルスを移してしまうリスクを減らすことができます。

多くの先進国ではすでに男性への定期接種が進んでおり、日本でも徐々に男性への接種(任意、または自治体による助成)の動きが広がっています。


過去の「副反応の報道」と、今なお残る不安に寄り添って

最後に、避けては通れない「副反応」についてお話しします。

日本で一時、積極的な勧奨が中止されるきっかけとなった、体の一部の痛みや運動障害などの多様な症状。あの痛みに苦しむお子さんや、苦悩するご家族の姿に胸を痛め、恐怖が記憶に残っている方は少なくありません。「あんな風になったらどうしよう」と不安になるのは当然です。

その後、国内外で数多くの大規模な調査が行われました。なかでも名古屋市で行われた調査(通称:名古屋スタディ)では、「ワクチンを打った人」と「打っていない人」の間で、それらの症状の出現頻度に差はない、つまりワクチンと症状の因果関係は否定されるという科学的な結論が出されました。


大切なのは「ゼロリスク」ではなく「リスクの比較」 科学的に因果関係が否定されたとはいえ、注射による一時的な痛みや、当日の体調不良(緊張などによる立ちくらみ=迷走神経反射)のリスクはゼロではありません。しかし、それ以上に「将来、若い年齢でがんになり、子宮を失ったり、命を落としたりするリスク」の方が、圧倒的に重く、現実的なリスクとして存在しています。


現在は、もし接種後に不安な症状が出た場合でも、専門の医療機関が連携してサポートする体制が各都道府県に整えられています。


まとめにかえて

今回、専門領域を越えてこのテーマを選んだのは、子宮頸がんが「人間の手で、ワクチンと検診によって多くが予防できる、数少ないがん」だからです。

かつて日本の接種率が激減した時期に機会を逃した方を対象とした「キャッチアップ接種」なども行われてきましたが、今なお、この情報が必要な人に届ききっていない現状があります。

ワクチンを打つか、打たないか。最終的に決めるのはご本人であり、ご家族です。 ただ、その選択が「過去のイメージによる恐怖」からではなく、「現在の正しいデータと事実」に基づいた納得のいくものであることを、一人の医師として切に願っています。

 
 
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